- ディスクブレーキの鳴き対策
- 2019年2月22日こだわり整備
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ディスクブレーキの鳴き対策
ナリタです。
ブレーキを踏むと「キーキー」と鳴る音。
この音を完璧に消す方法は、整備士の永遠のテーマかもしれません。※※※ この記事を読まれる前の注意事項 ※※※
・ディスクブレーキの鳴きの対策のみ書いてあります
・スポーツ走行向けブレーキパッドがキーキー鳴るのは別問題とします
・パッドが減って磨耗センサーが当たって鳴るのも別問題とします
・完全に鳴きを止められると言い切るわけではありません
・経験上こうやったら良くなる事が多かったということをまとめただけです
もくじ
1.鳴きとは
2.鳴いている状態と鳴いていない状態
3.メンテナンス
4.面圧
5.ブレーキパッドの材質
6.まとめYouTube動画でも説明しています!
1.鳴きとは
”鳴き”や”キーキー音”と表現されますが、音、すなわち振動ですよね。
不動体(ブレーキパッド)を回転体(ディスクローター)へ押し付ける力加減により、ある一定の条件を満たすことで共鳴(と言う表現で合っているのかわかりませんが)してキーキー音が発生する。
この共鳴する条件を消し去る事が鳴き対策と言えるのだと思います。
が、その一定の条件が何なのか、いち整備工場程度の設備では調べようがないですよね・・・少し分かりづらい気もするので、自転車で考えてみます。
一般的な自転車のブレーキはホイールをゴムのパッドで挟み込む構造です。
そのゴムのパッドが古くなったりするとキーキー鳴りますよね。
それと自動車の鳴きの原理は全く同じだと思うのです。自動車のディスクブレーキは、自転車のブレーキを頑固にした感じです。
つまりディスクブレーキの基本構造自体は自転車のブレーキと同じなのです。自転車のキーキー音の原因はほぼゴムのパッドの硬質化と言い切れますが、さすがに部品点数が多いディスクブレーキにそれを当てはめるのはナンセンスな気がします。
2.鳴いている状態と鳴いていない状態
鳴いている状態、つまり共鳴している状態とは?
と考えるとわけがわからなくなりますので、もう少し漠然と。
ブレーキが鳴くようになっている状態とは?
と、考えてみました。
おそらくですが、新車から数年以上経過していたり、10,000km以上走行されていると思います。
逆を言えば、新車状態だったらブレーキは鳴いていなかったはずです。新車状態=鳴かない状態
あくまで仮定ではありますが、新車状態へ戻す事が鳴きを止めることのカギなのではないかと思うのです。
3.メンテナンス
ということで、ディスクブレーキまわりの部品全てを新品部品にするのが確実な解決策かもしれませんが、それはコスパ的に現実味がありません。
※新車時から鳴くというのであればそれはもうディーラーにて保証修理を依頼するしかないと思います部品を交換せずあまりお金がかからない方法で現状の部品をメンテナンスし、新品の状態へと近づけていこうと思います。
僕がブレーキの鳴き止めで最初に着手するのは、ブレーキの基本的なメンテナンスからです。一通り説明は書きますが、細かくは過去の記事やYouTubeへ投稿した動画をご覧ください。
◇スライドピンの動きを良くする
スライドピンはグリスで満たされています。
そのグリスが熱で劣化し、しっかりと潤滑できなくなってくると、動きが悪くなります。
自分の経験上ですが、スライドピンのグリスを車検で塗り直してくれる整備工場はかなり少ないです。
真っ黒になって汚れて、動きが悪くなっていることはよくあります。下の写真はスライドピングリスを拭き取ったウエスの写真です。
かなり黒く汚れたグリスでした。
新しいグリスを塗布して組み付けます。
おすすめはWAKO’Sのシリコングリス(チューブの方)です。
◇サポートプレートの汚れをしっかりと落とす
この部品の汚れはブレーキパッドの動きを阻害します。
スライドピンと同様、車検時にこの部品の汚れを除去する作業をしている整備工場さんはかなり少ないです。
汚れを落とさず、グリスを塗布して作業完了している事がほとんどです。
左が汚れ除去後、右が汚れ除去前です。
ブレーキパッドがサポートプレートへはまる耳の部分もしっかりと清掃しましょう。
◇グリスアップ
各部品へどんなグリスを塗布しているのかも重要です。
新車状態へ戻すという目的で作業をすすめていますが、車種によっては新車時には塗布されていないケースがあります。
が、僕の経験上、グリスは塗布してあげた方が良いと思っています。
サポートプレートとブレーキパッドが接する面へはシリコングリスを使います。
シリコングリスを否定される事が多いですが、WAKO’Sさんが多額の費用を投じて研究された結果、この部分へはシリコングリスがベストチョイスだという結論に至っています。
耐熱温度は280℃と、その辺のシリコングリスとはわけが違います。
自分の何百、いや何千、いや何万倍も研究&勉強&投資されている会社の結論を、僕は信じます。
ブレーキパッドの背面にはブレーキプロテクター(スプレータイプと固形タイプがある)を塗布します。
ブレーキパッドと鳴き止めシムの間にはブレーキプロテクターグリスをつかいます。
こちらもシリコン系のグリスです。
粘土が非常に高く、振動を吸収してくれそうな、頼もしいグリスです。
棒メーカーの新車のブレーキにも採用されているとかなんとか。
僕はスプレーを愛用していますが、チューブタイプを塗られる方も多いです。
◇ディスクローターの表面を平らに
これは専用の設備が必要になりますが、新車時はディスクローターは真っ平らです。
年数や走行距離が伸びているディスクローターは、見た目はキレイでも少なからず段付き摩耗していたり、裏面が錆びていたりもします。
段付き摩耗やサビは鳴きの原因だったりもします。
あからさまなサビや段付き摩耗が無くても、できれば削って平らにしてあげた方がいいでしょう。
削るだけなら、設備がある整備工場なら工賃は2枚で1万円前後で施工してくれると思います。切削前
切削中
切削後
こちらもやはり、削る習慣の無い整備工場が多く、段付き摩耗したまま新品のブレーキパッドを組んだりしていて、ビックリする事が多々あります。
削る設備が高額だったという事もありますが、昨今ではかなりリーズナブルな設備もあるので、個人的には業界水準で基本設備としたいところです。昨今はディスクローターは新品でも安価なものがあったりします。
段付き摩耗やサビの侵攻がひどい場合は、削るよりも新品を購入された方がいいかもしれません。◇キャリパーピストンの動きを確認
ここは関連性が低い気もしますが、キャリパーピストンの動きが悪いとブレーキの効きや踏み加減が悪くなります。
ピストンのサビ具合や動きを確認し、さらに予防メンテナンスをしておくと良いでしょう。以下リンクにて詳しく記載してありますので、ここでは省略します。
以上で部品を交換せず、お金をあまりかけずに新車状態へと戻すメンテナンスは完了です。
これで鳴きが止まらないとなると、少し重症かもしれません・・・4.面圧
新車状態へ近づけてもダメな場合、次にするのは「面圧を上げる」です。
面圧を上げる事により、押す力と振動の関係を崩し、共鳴ポイントを変化させるのが狙いです。
(面圧の意味がわからない場合・・・ググってください・・・)経験上ですが面圧を上げても鳴きが完全に直るケースは少ないので、ここの記事では一応書きますが、普段は施工しません。
削り落とす分、ブレーキパッドが減るのが早くなるのがデメリットです。面圧を上げるには、パッドがディスクローターに接する面の左右を削り落とし、接する面積を減らします。
計算式にすると、ピストンが押す力 ÷ ブレーキパッドの面積 = 面圧
となります。
よく「面取りする」や「角を落とす」等と言ったりしますが、つまりは面圧を上げるということになります。
メンテナンスで面取りや角落としをすると言われたりもしますが、鳴きが発生していないのであれば削る必要は無いと、僕は考えます。ブレーキパッドが全く削られていない状態、この時の面圧を100と仮定します。
左右を削って接する面積を減らします。
写真では3/4ほどの面積になったので、面圧は約133となります。
削る時の注意。
左右は削ってもOKですが、上下は絶対に削ってはいけません。
ディスクローターの段付き摩耗の原因になります。
時々上下を削っているブレーキパッドを見ますが、確実にディスクローターが段付き摩耗しています。
左右の削り方や中央部にドリルで穴を空ける等、面圧の上げ方にも諸説ありますが、それらを追求するのは怖いので、これ以上を求められる場合は特に自己責任でお願いします。
上の方にも書きましたが、経験上ですが面圧を上げても鳴きが完全に直るケースは少ないので、施工はおすすめしません。
削り落とす分、ブレーキパッドが減るのが早くなるのがデメリットです。
大事な事なので2回書きました。5.ブレーキパッドの材質
面圧を上げてもダメだとすると、最終手段はブレーキパッドの材質の変更、つまりブレーキパッドの交換です。
僕の経験上、交換がいちばん確実な鳴き止め対策だと思います。
(お金がかかるという意味で最終手段としています)走行距離が数万kmでしたら、一度はブレーキパッドは交換履歴があるかもしれません。
ブレーキパッドの交換履歴がある場合、高確率で純正ではない社外品ブレーキパッドが取り付けられている可能性が高いです。社外品と言ってもスポーツ向けパッドや安物パッドではなく、純正同等品だと思ってください。
ブレーキパッドは純正品は仕入れ価格が高かったり、注文してから届くまで時間がかかるケースが多いです。
各整備工場の部品の仕入先業者が取引のある社外ブレーキパッドメーカー製なら、適度に仕入れ価格が安く注文から届くまでの時間が早いので、純正同等の社外品に変更されるケースがほとんどです。
(特に銘柄を指定しなければ)
逆に走行距離は少なく、年式が古い場合、パッドの成分劣化や変質、硬化等が考えられます。
古くなったブレーキパッドは亀裂が発生していたりもします。
いずれにせよ、違うメーカーのブレーキパッドに交換すれば少なからず材質が違うはずなので、固有振動数が少なからず変わり、共鳴ポイントが変化するはずです。
純正部品のブレーキパッドを購入して取り付けるのがベターかもしれませんが、上記したとおり純正部品は割高&すぐに届かないケースが多いので、社外品のブレーキパッドでオススメなのが日産のアフターパーツブランドの「PITWORK」です。
これは小山自動車さんに教えて頂いた事です。
僕自身の経験上でも、鳴きがどうしても止まらない場合、PITWORKのブレーキパッドにすると止まる事が多いです。
(PITWORKのブレーキパッドが装着されていて鳴いていたらごめんなさい)製造は完全委託だそうですが、完全OEMというわけではなさそうで、新型車が出るたびに車両テストを行い、鳴きが無いかを確認されているそうです。
日産部品はあたりまえですが全国展開していて、どこの整備工場でも割と取引してくださいますので、入手も難しくはないはずです。
(Amazonでも売ってました)しかし、結局はディスクローターとの相性もあるかもしれませんので、確実性を狙うなら純正品がいいかもしれません。
鳴き止めシムがセットになっている社外ブレーキパッドもあったりしますので、鳴き止めシムがボロボロになっている場合はそういったパッドのチョイスもいいかもしれません。6.まとめ
ながくなりましたが。
お金があまりかからない範囲で新車状態を目指し、それでもキーキー鳴く場合はPITWORKのブレーキパッドにしちゃいましょう!と、簡単にまとめたいところですが、これらを実行しても絶対に鳴きを止めるとお約束できるものではありません。
あくまで、僕、ナリタはこういう手順で対策をしていくというセオリーをまとめただけであり、車種によってはグリスの種類を変えたり、PITWORKじゃないパッドを使ったりと、ケース・バイ・ケースで対応することもあります。大切なのは基本となるセオリーを軸に、柔軟に対応できるよう勉強し、経験を積み、技術を磨くことに意味があるのだと思っています。
この記事をここまで読んで下さりありがとうございました!
ここに記載した情報が、少しでもあなたのお役に立てることを祈ります。